工場構造物の必要耐震性能による耐震グレード設定と経済的補強設計
目次
1.工場の必要耐震性能の想定
2. 耐震性能グレードの設定
3.必要耐震性能を満足した経済的な補強設計
建物など構造物の耐震、耐風性能について、よく聞かれるのが『地震や台風に持ち堪えるのか?』という言葉ですが、どの程度の地震や台風に対してどの程度の破損状況まで許容できるかが、曖昧な場合が多いと思います。
工場などの構造物は建築基準法、消防法、高圧ガス保安法などにより、法的に最低基準の耐震や耐風の耐力が規定されていますが、設備ごとの使用予定年数(プラント更新期間など)や製造上の重要性(代替え可能かなど)により製造および工場運営上に必要とされる耐震、耐風性能が異なりますので、この必要性能に応じた耐震、耐風設計をおこなうことで、経済的に災害時の被害の低減でき、災害後の事業継続の目安も立ちます。
以下に、災害の再現確率や災害レベル対応した設計グレードの研究、分析が進んでいる耐震設計について記載します。
1.工場の必要耐震性能の想定
個々の工場設備構造物の必要耐震性能は下記の要因から想定ができます。
①構造物の継続使用予定年数(50年間のうち40年間稼働、10年非稼働など)
②構造物内プラント設備の改造更新予定年数(10年程度など)
③製造製品の重要度(他工場などで代替え生産可能、代替え生産不可の重要製品など)
製造に使われる使用期間が長くなれば、大きい地震に遭遇する確率が増えるので、想定される震度は大きくなります。
また、製造される製品の重要度および製造設備の価格が高いと地震後の被害状況を小さくするため必要な耐震グレードは上がります。
これらの要因から想定すべき震度と、抑制すべき地震後の被害程度により必要な耐震性能が判断できます。
地域ごとに想定される震度の地震再現確率が大きく異なるので下図のJ-SHIS Mapの地震予想地図を参考に工場の所在地での各震度の再現確率から使用年数での想定震度を判断できます。
この資料によると兵庫県の阪神地区の工場が集中している地域では30年間の震度6弱の確率が濃い紫色の26%以上となっていますので、この地域では長期使用の工場では震度6弱程度を想定するのが安全といえます。
この地震マップのサイトをご覧になりたい方は下記URLをクリックしてダウンロードして下さい。
https://www.j-shis.bosai.go.jp/map/

2.耐震グレード
必要な耐震性能グレードを具体的に判定するには下表の震度レベル(横軸)と被害状況(縦軸)の組み合わせにより想定する方法があります。
日本建築構造技術者協会発行のJSCA性能設計【耐震性能編】では地震の大きさとの被害状況の組み合わせによる耐震性能グレードの関係を表しています。
使用期間が長くなれば、想定すべき震度が大きくなりますし、重要度の高い製造設備であれば地震後の被害は小破以下に抑える必要があり耐震性能グレードは建築基準法の基準法より高い上級が必要になります。また、使用期間が短く(20年以下など)想定される地震は震度5程度で良く、代替え可能な安価な製造設備であれば被害も中破程度許容され、法令対象外の設備の場合には、建築基準方を満たさない耐震性能の選択もできるので、安価なで軽微な耐震補強、補修の選択が可能です。
https://www.jsca.or.jp/vol5/p4/pamphlet2.pdf
下記耐震性能編パンフレットをご覧になりたい方は上記URLをクリックして閲覧して下さい。
3.必要耐震性能を満足した経済的な補強設計
必要な耐震性能グレードを満足した経済的設計を行うには新築では層間変形を小さくするための座屈拘束ブレース設置など多くの提案がされていますが、補強設計の場合は耐震改修促進法の保有耐力判定による倒壊の危険性の度合いが提示されているだけで事業継続に必要な判定方法は確立されていません。
ここでは私案でありますが、下記のJSAC提案の新築中層S造の耐震性能簡易判定方法(一次設計での層間変形抑制による大地震の被害抑制)などを参考に提案します。
時刻歴応答解析による最大応答層間変形角の把握が困難な、中低層建築ではS造の場合では、震度6強の地震時に軽微な破損で収まり、事業継続可能な特級クラスの設計方法として、ラーメン構造に座屈拘束ブレースの追加等により一次設計弾性変位の層間変形角<1/750かつ目標Ds(性能Ds)>0.75を提案しており、大地震時に小破でおさまり中規模の修繕で事業再開可能に復旧できる上級レベルの設計法として一次設計弾性変位の層間変形角<1/500かつ目標Ds(性能Ds)>0.5を提案しています。
正確な全体構造解析が難しい既設構造物では建設時の構造計算書と現地腐食損傷調査結果なども考慮して
地震時の変形を抑えながら、構造物全体に地震力を吸収できるバランス良い靱性がある構造を確保する設計が必要です。
①ブレース構造の補強
ブレースは製造上の都合で除去されている場合が多いですが、配管設備を避けて逆Vなど変則形式でブレースを下図のプラント架構補強のようにできるだけ全体配置していくことが適当です。

ブレース補強の注意点としては増設ガセット定着部の溶接強度および柱本体の耐力不足する場合が多いので、ブレース部の伸び変形で地震力を吸収でき、柱本体の変形座屈が起きないように下図のような座屈防止補強が必要です。

②ラーメン構造の補強
梁間方向などのラーメン構造ではチェッカー床下の柱基部の腐食部補強では、本来のラーメン構造が復旧できておらず半ピン半剛構造の場合が多いため、柱・梁コーナー部のパネル補強や方杖で補強が必要です。下図はラーメン構造の建屋のラーメンコーナー部補強のためパネル補強した例です。


③補強後の耐震評価
上記①のブレース架構補強後の耐震診断指標は規定値以上(Is0.68>0.6、qi=1.08>0.6)に改善しており、倒壊の可能性は小さくなりましたが、層間変形角は降伏点付近で20mmで
1/120程度で大きいため震度6強地震時には大きな揺れにより架構上の生産設備に大きな被害が発生すると考えられます。
地震時の被害を小さくするためには層間変形を1/300程度に抑制するブレース配置が必要ですが、製造プラントの配置変更により拘束力が大きいX型のブレースの増設が必要と考えられます。





